
長いレースはまだ始まったばかりだが、朝っぱらから刺激を受けたとんべりは選手でもないのになんだか落ち着かない。
ダンナはああやってすごいランナーに混じって自分の力を試そうとしている。
とんべりだって負けないぞ!
(いや、そういう問題じゃ・・・)
よし、踊ろうっっ!!
(ぎゃー)
というわけで、帰宅してから延々5時間連続でタヒチアン・ダンスを踊り続けたのだった。
まったくご苦労さんなこってす(笑)
ぎっくり腰で動けなかった分を取り戻したいという気持ちもあったのだが、とんべりも例に漏れず、踊っているうちにどんどん脳みそからあぶない物質が出てきてラリラリになってしまったようである。
―ぬけるように真っ白な砂浜、この世とも思えぬ青い海、どう考えてもお肌に良くない強烈な紫外線、ぐらぐら揺れるヤシの木に目に焼きつく真っ赤なハイビスカス、人を虜にするティアレ・タヒチの濃厚な香り、ハイピッチなタヒチアン・ウクレレの調べに血を騒がすトッエレのリズム・・・
踊りながらいろんなものがありありと見えて、聞こえて、匂ってしまう。
旅行代金も払わないでこんなにお手軽にタヒチ旅行ができるなんて、とんべりの脳内トリップは便利だなあ〜♪
などといい気になっていたら、いつの間にやら腰から下がロボットさん&アキレス腱が変になっていた。。。(滝汗)
ひざの次は腰、腰の次はアキレス腱??
あわててプロテインやらビタミンを摂取し、バンテリンを塗りまくり、ため息混じりに外を見ると、早くも日は翳り空に暮色が忍び寄っていた。
長い夜が始まろうとしている。
もの悲しい空を眺めているうちに、ふと、ダンナもたぶん人恋しい気分だろうなと電話に手を伸ばしたら、ナイスタイミングであちらから電話がかかってきた。
声はいたって元気そうで(そりゃそうだ、まだレースは始まったばかりだし)、今夜はこのまま走り続けて強制レスト地点の「コマドリ荘」まで直行するという。
事前にダンナが立てた進行表によれば、コマドリ荘の予想到着タイムは5月1日の午前9時頃。
といっても、それはあくまで『希望的進行時間』であって、どういうことになるのかはまったくわからない。
なにしろ265キロは未知の世界である。

↑中津川渓谷 5/1 11:00AM頃 きれいですね♪
さて、夜をついて激走するダンナをよそに爆睡したとんべり、翌朝起きてケータイを見てみると、チェックポイント通過ごとにまめにメールが入っていた。
というのも、とんべり、ボロ雑巾のようになるに違いないダンナを小諸まで回収しに行こうと思っているのだが、いつごろゴールするのか見当が付かないと予定が立たないので、進行状況はマメに連絡するよう頼んであったのである。
見ると、第7チェックポイント通過が予想タイムの4時間遅れである。
このままズルズル行けば、小諸到着は2日の10時頃になりそうだ。
まあ、昼くらいまでに着いてくれれば、ゴール後ホテルで仮眠をとってもその日のうちに帰宅できる。
GWのさなか、空いてる宿を探して右往左往しなくて済むわけだ。

↑殺戮的紫外線が降り注ぐ魔のバルコニー
バルコニーに出てバラに水遣りしていると、今日はまたことのほか暑い!
紫外線もきつくて、バラ日和というよりヤシ日和。GWというより夏休み。
とんべりはすっかりタヒチ気分でご機嫌だが、これはきついランになりそうだと思っているとダンナから電話が来た。
案の定、ヘタれた声を出している。
「暑い!とにかく暑い!!コマドリ荘到着は昼過ぎになりそうだから、出発は4時頃になるかなあ・・・」
今や走行距離も150キロを越え、ダンナも未知の世界に直面しているはずだ。
いよいよ勝負はこれからである。
ダンナは、過去3回富士登山競争でタイムアウトし涙を呑んでいるが、自分からリタイヤしたことはない。
きっと今回も、重篤な体調不良とか骨折でもしない限りリタイヤはしないと思うが、身体的精神的にかなりきびしい局面に立たされるんじゃないかと思う。
ま、がんばれと声はかけてみるものの、しょせん応援なんてむなしいもんだ。
最後に力になるのは、日頃の努力、自分で自分を支える力のみ。
ここ最近、ずっと食事時にキャベツ1/6玉食べて減量してきた努力、通販で買った重量級のプロ仕様ステッパーを踏み続けてきた努力、雨の日も風の日も河原に通い続けた努力、そういったもろもろをぜひ実らせて結果を出してくれ。
あんたがやるならアタシもやってやる。
よし、踊るぞ!(ぎゃー)
とんべり、今日もタヒチの日アゲインである(爆)

↑中津川渓谷 5/1 11:00AM頃
でも、そう踊ってばかりもいられない。
2日のうちに帰宅できれば問題はないのだが、もし一泊しなければならなくなったらかわいいかわいいバラたちが水切れでお亡くなりになってしまう。
雨の日も風の日も寒い日も暑い日も焼けても凍えても、せっせと面倒見てきたバラたちは、今、たわわなつぼみたちを枝いっぱいにつけて重そうに風に揺れているのである。
何が何でも今日中に自動潅水装置を設置しなければならない!
が、これが始めてみると意外と手がかかる。
すでに装置は設置してあるのだから、あとはドリッパーを鉢に分配すれば良いだけと思っていたのだが、これがとんでもない誤算だった。
この一年でどの植物もグンと成長し、ドリッパーを分配する管が短すぎて鉢まで届かない!
余分の管がもうないので、仕方なしに使っていない管をはずして継ぎ手で継ぎ足しなんとかかんとかドリッパーを挿していく。
バラのトゲには引っ掻きまくられるし、暑いし、変な姿勢でかがんでいるので腰は痛いし、硬くなった管を力任せに引っ張るので指が痛くって、なんかもう最悪なのだー(涙)

↑中津川渓谷 5/1 11:00AM頃
4時過ぎ、相変わらず潅水装置と格闘しているとダンナから電話がかかってきた。
これからコマドリ荘を出発するという。
山荘ではよく休めたかと聞くと、どうもイマイチだったらしい。
入れ代わり立ち代り人が到着しては荷物を整理し出発していくので、気ぜわしくて落ち着いて眠れないらしいのだ。
それでも風呂に浸かって横になって、だいぶ楽になったということだ。
暗くなる前に三国峠を越えたいので、もう出発するねと言う。
声が心なしか憔悴している。

↑三国峠越え 5/1 17:30PM 孤独な一人旅
このレース最大の難所にこれから立ち向かうのだ。
夜も一晩なら勢いで過ごせるだろう。
けれど二晩目ともなると疲れも出てくる。
なにより、夜というのは精神的にきつい。
暗い中を動き続けていると、このままいつまでたっても夜は明けないんじゃないかとか、さっきからぜんぜん時間が経たないとか、そういう焦燥感や不安に駆られるものである。
強い睡魔にも襲われるだろう。
自分で好き好んで出場してるのに、「俺、こんなとこで何やってんだ?」というボヤキも口から出てくる。
さらに、この先は峠で電話もつながりにくいらしい。
行きつく先は大きな独り言の世界(笑)
ダンナは雁坂峠の143キロレースに出たとき、最後の方では「どうしていつまでたっても〇〇町なんだ!走っても走っても〇〇町なんだ!」とののしっりつつ走っていたそうである。
以前に川の道520キロを走った人は「最後の方では電柱とお話していました」と語っていたそうである。
三国峠には電柱も標識もないだろうから、まあせいぜい星や木と話してくれ。

↑三国峠越え 5/1 18:30PM 暮れなずむ山々は美しいが・・・
その後、三国峠は4時間遅れの20:00頃に通過したとメールがあった。
こっちはこっちで、明日の準備をしたり家の片づけをしたり、けっこう忙しくて、ダンナの心を和ませる(というより苛立たせる?)おバカな応援メールを打つ時間がない。
そうこうするうちに、12時頃、ダンナから電話があった。
「今、川上村を走ってるんだけど、走っても走っても川上村なんだ!」
雁坂峠とおんなじこといってるぞ・・・(汗)
「寒い!とにかく寒い!あるもの全部着てるけど寒くてしょうがない。息が白い!気温が4℃だ!」
ダンナはありったけの衣類の上に、寝る時敷くつもりだったプチプチ君や合羽まで着込んだそうであるが、それでもまだ寒いとこぼし続ける。
昼間はあんなに暑かったのに、平地の自宅近辺でも夜はけっこう寒い。
長野の山奥では、相当寒いだろうと想像がつく。
「寒すぎて仮眠できない!川上村、寒すぎ!南牧村に行ったらどこかで寝る!」
「寝るなー寝ると死ぬぞぉ!」とこっちも調子を合わせてみる。
「セキが出る!風邪引いた!」
ああ〜〜こりゃ相当ダメージを受けてるなあ。。。
ムスコに電話を替わると、「まあ、走りながら勢いで治せば」なんて言い放ってるし、うちの家族ってけっこう優しくないじゃん!と思ったのだが、ムスコとしては複雑な心境なのかもしれない。
コーコーセーの自分(文化部)よりはるかに体力があって、元空手部主将で戦っても絶対倒せなさそうなオヤジが正体なくへたれてるのは、ムスコ的に許せない気分なのかもしれん。
「まあ、小諸にはお昼すぎにゴールできればいいほうなんじゃないのかなあ・・・」と、ダンナすっかり弱気な発言である。
「あたしも一応10時頃着くように家を出るつもりでいるんだけどね。でも、潅水装置がまだ完成していないから、明日は相当早起きしないと・・・」
まあ、こんな会話をしてその夜はお開きとなった。
翌朝は潅水装置を完成させるため早起きしたのだが、それでもすっかり時間を食い、結局家を出たのは予定の一時間遅れの8:30となった。
小諸の到着時間はジャスト11時。
ダンナからは、「245キロ付近をゴールに向けて進行中」というメールが7:44分に入っている。
残り20キロである。
現在のペースタイムが分からないのでなんともいえないが、フルのペースだったら2時間経たずにゴールしてしまう距離だ。
やばい!10時前にはゴールしてしまう(汗)
あれ、なんか計算が合わない?意外に早い展開?
あんなにボロボロだったのに、夜中にいったい何が?
果たしてとんべりはダンナのゴールに間に合うのだろうか。
新幹線あさまを捕まえるべく、東京駅に急行だ!